組織で働く人間が引き起こす不正・事故対応WGによる人事部門へのヒアリング
<第15回>
« 【特別編 第5回】津田雄一氏へのインタビュー(前記事へのリンク) | 【特別編 第6回】吉原拓也氏へのインタビュー(次記事へのリンク) » |
日本電気株式会社
■設立:1899年(明治32年)
■所在地:本社 東京都港区
■従業員数:連結 114,714名(2021年3月末現在)
■資本金:4,278億円 (2021年3月31日現在)(東証一部上場)
■売上高:2020年度実績2兆9,940億円(連結売上)
■事業内容:ITソリューションやネットワークサービスなど「宇宙から海底まで」
50か国以上の国、そして世界301拠点でビジネスを展開
NECグループ(以下「NEC」)は、「社員の力を最大限に引き出す」ことにより「イノベーティブな行動や挑戦」を促し、「市場の変化・複雑化にスピーディに対応」するため、「社員の声と徹底的に向き合い」「グループ11万人のベクトルを合わせ」社員の成長を促す、人事評価制度改革とスマートな働き方の実践に取り組んでいる。
今回は、NEC本社を訪問し、人事総務部シニアマネージャー宗由利子氏、柴田篤志氏にお話をお伺いした。(2021年11月実施)
自社の職場を「人が活きいきとやりがいを持って働ける環境」にするために、NECが実施しているさまざまな工夫を紹介する。
●NECの事業内容について
一消費者としてなじみがあったNECのイメージは、往年のPC98シリーズから続くパソコン、ネットワーク周りの通信機器,携帯電話といった、いわゆる「ものづくり」の製造業であった。しかしながら現在は、「DIGITAL GOVERNMENT/DIGITAL FINANCE」、「GROBAL 5G」、「CORE DX」を成長事業とするITソリューションとネットワークソリューションの提供を中核とする社会価値創造型企業にシフトしていた。
●コンプライアンスの日
NECグループでは、コンプライアンスを経営の基本に置き、役員から従業員に至るまで、全社的な取り組みを継続的に実施している。なかでも、毎年11月18日を「コンプライアンスの日」と定め、過去のコンプライアンスの問題を反省の礎とし、全社でコンプライアンスの重要性を再確認し、自分事とする日としている。NEC WayのPrinciplesに掲げた「常にゆるぎないインテグリティと人権の尊重」に向けての決意を、全従業員が意識し、それを確認するためのものである。
●NEC Way
「NEC Way」は、NECグループが共通で持つ価値観であり行動の原点である。
2020年、NEC120年の歴史で生まれた様々な理念・考え方を整理し、新しい「NEC Way」としてリニューアルした。
「NEC Way」は、「Purpose(存在意義)」「Principles(行動原則)」「Code of Values(行動基準)」「Code of Conduct(行動規範)」で構成され、NECグループは何のために存在しているのか? 存在意義を全うするために会社として何を大切にふるまうのか?という会社としての姿勢と、そこで働く一人ひとりの企業人としての価値観・ふるまいを示している。
(ご参考:「NEC Way: 会社概要 | NEC」)
このNEC Wayの実現に向けてNECグループでは様々な変革活動が始まっている。例えば、これまで、いわば性悪説を前提として会社が細かい点までルールを決めるといった北風的政策だった各種の取り組みから、性善説を前提とした「様々な選択肢の中から一人ひとりが自律的に選べる」ような太陽的政策に、大きく舵を切って変えてきた。
●人事制度改革
NECでは、自社を、VUCA(Volatility<変動性>, Uncertainty<不確実性>, Complexity<複雑性>, Ambiguity<曖昧性>の頭文字をとった略称)が叫ばれるこの時代も最高の結果を出せるチームとし、社員が仕事の喜びを感じ、誇れる企業にし、また時代を超えて選ばれ続け、持続可能な成長ができる企業基盤を再構築するために様々な施策を展開している。その一環として、人事評価制度を、社員の成長(挑戦する人)を促す制度に改めた。具体的には、この時代に求められる行動をNEC WayのCode of Values(行動基準)として設定し、成長の源泉である「人」に対し、業績と行動の両面からフェアな評価とフィードバックを行う評価・育成制度として運用を開始した。
【Code of Values(行動基準)】
- 視線は外向き、未来を見通すように
Look Outward. See the Future.
(社会の変化に興味を持ち、未来に先回りして、新しい価値をお客様に提供できているか?) - 思考はシンプル、戦略を示せるように
Think Simply. Display Clear Strategy.
(本質的に考え抜き、シンプルでクリアな目標へ向け、強みを生かした戦い方を描けているか?) - 心は情熱的、自らやり遂げるように
Be Passionate. Follow through to the End.
(課題を直視し、自分事化し、意志と情熱をもって、勝つことにこだわりつつ挑戦しているか?) - 行動はスピード、チャンスを逃がさぬように
Move Fast. Never Miss an Opportunity.
(不確実性を受容し、走りながら考える柔軟な態度で、チャンスを逃さずアイデアを実行に移しているか?) - 組織はオープン、全員が成長できるように
Encourage Openness. Stimulate the Growth of All.
(体面や立場を気にせず、互いを高め合い、全員が活躍し成長できているか?)


●コミュニケーション改革
働く人間のベクトルを合わせるためには、NEC WayやそのCode of Values(行動基準)を各人が理解し、自分事化した上で実践する必要がある。そのために、コミュニケーションのあり方も大きく変えた。
- @カジュアルで「変化」を感じることができるコミュニケーションへ
社員に会社の変化を実感してもらえるよう、文字ばかりでなく、イラストや写真を使いながらコミュニケーションを図る。
社内変革プロジェクト「Project RISE」の推進 「みんなのRISEアクション」
また、本当の意味で、働く人間のベクトルを合わせるためには、経営層と社員の距離が近くなるような対話が必要である。そのため、毎月実施している社長のオンラインタウンホールミーティングをはじめ、経営層から発信されるメッセージも増えた。また現場レベルでは、上司と部下が 頻繁に1on1で対話するなど、全社のあらゆるレベルで、意識の乖離が起きないよう配慮している。
- A社員の変革の実感値をモニタリング
会社が進める変革については、3か月ごとに実施するパルスサーベイを通じて、社員の変革の実感値をモニタリングしている。
このほか、年に1回エンゲージメントを測定するOne NECサーベイの結果と合わせ、VoE(Voice of Employee:社員の声)をくみ上げ、中期的・短期的施策に反映させている。
また、サーベイの結果はすべてWebで公開し全社員が見られるようにしている。
●NECの働き方変革「Smart Work」
「Smart Work」のコンセプトは「会社の成長」と「社員の成長と幸せ」の共存と、その好循環である。仕事を通じて成長や幸せを実感してもらうために、会社は、社員一人ひとりが最大のパフォーマンスを発揮できる環境や機会の提供を行う。具体的には、スマートに働くための「インフラの整備」「業務プロセスのシンプル化」を進め、そしてそれらを自律的に使いこなしてパフォーマンスを高めようとするマインドセットの醸成つまり「意識改革」の機会の提供である。それを社員一人ひとりの心に届くようにするためには、コミュニケーションを促進し、社員にそのコンセプトが見えることが重要だ。
- @インフラの整備(制度・ツール・オフィスのパフォーマンス最大化に向けた生産的な業務環境の整備)
社員に会社の変化を実感してもらえるよう、文字ばかりでなく、イラストや写真を使いながらコミュニケーションを図る。
【働く時間】
・コアタイムのないスーパーフレックスタイム制度(働く時間からの解放)の実施
【働く場所】
・テレワーク活用による「働く場所からの開放」と「多様な働き方」の実現
・オフィス改革(コワーキングスペース、フリーアドレス)の採用
・「デジタルワークプレイス」の実現
(NECグループ9万人が利用開始。Office365、Zoom、boxを活用しワークスタイルを変革。
統一ドメインnec.com によるビジネス・コラボレーション基盤の実現)
【働くスタイル】
ドレスコードフリー - A業務プロスセスのシンプル化(ムダを排除してシンプル化・標準化)
承認の電子化(デジタルの恩恵、セキュリティファーストで、ハンコ出社を不要とする取り組み)を推進
電話取次のスマートな運用(具体的には、部門の代表電話ではなく、個人の電話番号を名刺に記載し電話当番を不要とする取り組み。) - B意識改革(変革のためのマインドセット)
【意識改革を促すコミュニケーション】
「Why Smart Work」を自分事化してもらうために、コミュニケーションツールでは、人の感性に訴えるように、ビジュアルを全面的に使用。
【新しい働き方の実践・体感の機会づくり】
東京都が推進するスムーズビズや国が推進するテレワーク・デイズ等を活用して、テレワークの実践機会を提供。スムーズビズ推進大賞(2019年)や日本テレワーク協会会長賞(2019-20年)を受賞するなどその成功体験を社員と共有。
特にテレワークの推進にあたっては、テレワーク・デイズを設定して、テレワークの実践を促進して体感してもらうほか、ITインフラの負荷検証、交通混雑や荒天・パンデミック等による出社困難を想定した事業継続計画の検証・訓練を行ったとのことだ。
(ちなみに2020年2月20に実施したテレワーク・ディではNECグループで約41,000人、NEC単体では約16,000人、全体の約8割に当たる社員が参加したとのこと)
●これからの働き方 Smart Work2.0
- @社会の変化 〜新型コロナウイルス感染症に対する取り組み〜
世界中に影響を及ぼした新型コロナウイルス感染症は、働き方やマインドに不可逆的な影響を与えた。2020年4月7日、政府が発令した緊急事態宣言を受け、パートナー企業の社員も含め6万人以上の社員がスムーズにリモートワークに移行し、出社を前提としない働き方が当たり前になった。(参考情報)新型コロナウイルス感染症と社会の変化 新型コロナウイルス感染症対策の基本方針(抜粋)
令和2年2月25 日 厚生労働省「新型コロナウイルス感染症対策本部」決定
感染の流行を早期に終息させるためには、クラスター(集団)が次のクラスター(集団)を生み出すことを防止することが極めて重要であり、徹底した対策を講じていくべきである。また、こうした感染拡大防止策により、患者の増加のスピードを可能な限り抑制することは、今後の国内での流行を抑える上で、重要な意味を持つ。
新型コロナウイルス感染症対策の基本方針の重要事項
患者・感染者との接触機会を減らす観点から、企業に 対して発熱等の風邪症状が見られる職員等への休暇 取得の勧奨、テレワークや時差出勤の推進等を強力に呼びかける。
000603967.pdf (mhlw.go.jp)
その一方で、以下のような課題も明らかになった。
・自然発生的なコミュニティ間のつながりの希薄化と,それにより部署横断的な活動の減少
・グループの枠を超えた情報共有のためのインフラの必要性
リモートワークの環境下で、チームとしての力を高めることや、他者を巻き込み創造性を発揮することの重要性を再認識するに至ったとのことだ。 - A社会の変化 〜将来の働く人の姿〜
2030年の社会では、働く人々の姿勢がこれまで以上に自律化し、それにともない社員と企業の関係性が大きく変化すること想定した。具体的には、以下のような変化を措定して考えたとのことだ。
【働く目的】
・社会課題の解決や社会貢献を目的とした仕事に従事する生活者が増加する
・社会貢献が、生活者の自己実現と深く結びつく
・自他問わず、人の生活をよりよいものにしていくことに幸福を感じる
【働き方】
・単純作業や労働集約的業務の更なる自動化とワンストップ化
・国境や時差の壁を越え、対面したことがない人とも親密な関係を築いて協働
・公と私が密接にかかわり、個による自律的なデザインと他者の尊重が重要に
【個人と企業の関係性】
・同じ目的を持った人々による世界規模でのコラボレーションの加速
・企業と生活者の対等な関係への変化
・自己の目的に沿った複数の選択肢の中から、生活者として取り組む仕事を選択。仕事を通して自己の能力を磨きながら挑戦する形に - BSmart Work を次のステージへ 〜2025中期計画に向けて〜
・社員の自立と成長を後押しする環境整備と実践の機会提供
・働きがいを感じて高いパフォーマンスを発揮できるエンゲージメントの高い職場へ
- CSmart Work 2.0が目指す働きがい
社員一人ひとりが、NEC WayのCode of Values(行動基準)を実践し、大きな社会価値を提供できたとき、その経験は、私たちの成長やキャリアアップ、自己実現、そしてNECで働く誇りにつながる。Smart Work 2.0では、一人でも多くの社員がCode of Valuesの実践によって、自律的な成長とNECで働く誇りにつながる経験を獲得することで、働きがいを強く実感し、それによってエンゲージメントの向上につなげることを目指している。 - DCode of Value を体現する ポストコロナの3つのワークスタイル
自律的に、リモートとリアルを駆使して、以下のような3つのワークスタイルのベストミックスを追求するハイブリッドワークに移行する。
- ECode of Value の体現を加速させるデジタルのフル活用(デジタルテクノロジーを駆使した働き方改革)
●今回のインタビューの考察として(内部不正の本質的な解決のために)
今回のインタビューでのキーワードとしては、「自律」が印象的であった。この「自律」は,以下のように集約できるだろう。
・様々なケースにおいて、一人ひとりが、自分のスタイルを複数の選択肢の中から「自律」的に選べる
・社員が、これまで以上に「自律」し、企業のあり方が今以上に社員と対等の関係に変化
・公と私が密接にかかわり、個による「自律」的なデザインと他者の尊重が重要に
・「自律」的に、リモートとリアルを駆使したワークスタイルのベストミックスを追求するハイブリッドワークに移行
「自律」(Autonomy)を定義する場合に、2つの捉え方がある。
1つは、「自己決定」を意味する「自律」であり、これは、「自分の生き方を自分で決めることが、 幸福になるために欠かせない条件だ」という考え方である。
システム一般理論ではPDCAを「自律」(self-regulating)と定義することがある。これは環境変化に対して、目標値を一定に保つために下位組織が自律調整により適応していく生命維持活動(有機的組織)である。
全体目標を達成するために、各個人が一定のルールの下で最適と判断した活動を行うことである。これは「マネジメントシステム」そのものである。
もう1つは、「道徳的自律」であり、これは他律的道徳である組織の全体目標に盲目的に従うのではなく、倫理的方針に従い行為の善悪を自ら考え、最適な選択を行うことである。(カント的自律概念)
NECでは、自律の基盤となる目標を【Code of Values(行動基準)】に定めた理念としていることから、個々人の取り組みに要求する「働き方の変革」は、「道徳的自律」に近いように感じる。この取り組みは個人による解釈の自由度が高くなるので、理念を共有化するための「カルチャー作り」、「双方向コミュニケーション」に重点を置いていることがわかる。また、最適な選択を実現するためにITインフラの整備が、この活動の裏づけとなっていることを感じた。
●おわりに
今回は、NECを訪問し、「人が活きいきとやりがいを持って働ける環境」、「従業員満足度(ES: Employee Satisfaction)の高い環境」にするために実施している様々な取組を聞かせていただいた。
「働き方への変革」への取り組み(Plan)を具体的な活動として「カルチャー作り」「双方向コミュニケーション」実施(Do)だけで終わってしまうことが多いが、定期的に「社員の変革の実感値をモニタリング」(Check)を実施し、結果はすべてWebで公開することにより、VoE(Voice of Employee:社員の声)を変革に反映(Act)する取り組みは、なかなかできることではないと思う。実体は予想よりも辛辣な結果を提示することがあるからである。
このような形で現実を直視し、公平・公正(フェア)な自律調整(PDCA)の追求を、すべての組織で、良い悪いを含めて真似することは難しいかしもれない。しかしながら、その一部でも実施することは、働く人々の満足度を上げて、内部不正に対して「北風と太陽」の太陽的対策として有効に働くことは間違いない。内部不正対策を徹底したい職場の担当者は、ぜひ参考にして頂きたい。
« 【特別編 第5回】津田雄一氏へのインタビュー(前記事へのリンク) | 【特別編 第6回】吉原拓也氏へのインタビュー(次記事へのリンク) » |