インタビュー連載「日本の人事と内部不正」<第14回>

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株式会社大塚商会

【株式会社大塚商会の概要】
■設立:1961年7月     ■本社所在地:東京都千代田区    
■従業員数:7,145名(連結従業員数8,732名)(2018年末日現在)
■資本金:10,374百万円  ■売上高:684,912百万円(連結売上759,871百万円)(2018年12月期実績)
■事業内容:システムインテグレーション事業、サービス&サポート事業

大塚商会について

大塚商会は、創業50余年のソリューションプロバイダーである。社会的役割・責任・存在意義を「使命」として、目指すべき「目標」や日々の「行動指針」を宣言した、会社の憲法である「ミッションステートメント」を制定し、顧客、従業員、会社自身の3者の成長を目指している。今回は同社を訪問し、人事総務部長の小泉氏と広報・IR課の岸氏にお話を伺った。

【写真】ショールームに掲示されているミッションステートメント
【写真】ショールームに掲示されているミッションステートメント

大塚商会グループのミッションステートメント
使命
大塚商会は多くの企業に、情報・通信技術の革新によってもたらされる新しい事業機会や経営改善の手段を具体的な形で提供し、企業活動全般にわたってサポートします。そして、各企業の成長を支援し、わが国のさらなる発展と心豊かな社会の創造に貢献しつづけます。

目標
・ 社会から信頼され、支持される企業グループとなる。
・ 従業員の成長や自己実現を支援する企業グループとなる。
・ 自然や社会とやさしく共存共栄する先進的な企業グループとなる。
・ 常に時代にマッチしたビジネスモデルを創出しつづける企業グループとなる。

行動指針
・ 常にお客様の目線で考え、お互いに協力して行動する。
・ 先達のチャレンジ精神を継承し、自ら考え、進んで行動する。
・ 法を遵守し、社会のルールに則して行動する。

●開かれた会社へ

インタビュー冒頭に、現社長に交替した2000年頃の経営ビジョン策定時のお話を伺った。同社では経営ビジョンの策定にあたり、社内委員会で自社の「強み」「弱み」を分析した。するとヒトに関わる「弱み」として、各種社内規定が「ルールとして明文化されていないこと」が挙がった。例えば賞与について従業員は、経営陣だけの一存で決定しているのではないか?との意識を持っていた。ここに同社の「強み」、すなわち「営業会社として意思貫徹し、業績の数字を挙げる」ことが悪い方向に作用すると、内部不正の温床になりかねないという懸念があった。業績だけに目が向き、そのためには何でもありになりかねないからである。

そこで、「意思貫徹し業績を挙げること」は堅持しつつも、賃金につながる評価に際しては、行動やプロセスを評価することも加えることを目指した。しかし、行動やプロセスを変えることは、数値で評価できる業績とは異なり時間が掛かる。そこで、長期的な視点でのソフトランディングを目指したという。賃金体系は毎年少しずつ変更することにし、変更に際しては公開で討論を行った。同社には労働組合がなく、またIT企業としてすでに社内IT化によりイントラネットが整備されていた。そこで評価基準案をイントラネットの掲示板に公開し、従業員と会社が自由に討議できる場を設けた。討論の過程は全従業員が閲覧可能とし、一方向になりがちな説明会ではなく双方向の意思疎通を公開したことで、ルールについて従業員の納得感が向上した。

【写真】株式会社大塚商会 岸氏(左)小泉氏(右)
【写真】株式会社大塚商会 岸氏(左)小泉氏(右)

現在、従業員の賃金は全社の業績と連動することが確立されており、役職定年制度がないため一定年齢到達での急激な賃金減少は生じていない。同社の定年は現在62歳であり65歳まで再雇用を実施しているが、このような納得感がありかつ業績と連動する賃金体系が、安心して働き続けることのモチベーションにつながっていると考えられる。

各種施策実施後、経営陣が従業員の反応を把握するための、意識調査が実施された。意識調査の内容は、半分をミッションステートメントの浸透度について、残り半分は生活に直結する賃金や福利厚生への満足度、職場環境への満足度等とした。調査は無記名で実施し、毎年定点観測を行った。その結果から改善ポイントを把握して施策を立てるという、PDCAサイクルを回してきたという。また定点観測を実施することで、たとえその時点では満足度が高くない項目であっても改善に向かっている傾向が把握できるようになったという。

評価全般について、基本的には「上司だけでなく周りからの評価を含めた360°評価を実施している」(小泉氏)という。最終評価は上司が実施するが、360°評価と上司評価に乖離が見られる場合、人事がチェックを行っているという。すなわち、周りの見た目や周りへの協力といった、円滑なコミュニケーションが取れているかを評価に反映している。

また、営業職など業績が数値で評価しやすい業種に比べ、パフォーマンスが数字で出にくいスタッフ部門については、どのような評価を実施しているのか、という点も伺った。このような場合、部署ごとに定めた業務習熟度(「何ができるのか」)でパフォーマンスを評価しているという。これに加え、直近半年について目標管理状況と、上記の行動プロセスの評価の3点で総合的に評価している。

●より高いパフォーマンスを目指して

同社における評価は、賃金面だけにとどまらない。顧客満足度において顧客から名指しで高評価を得た従業員を社内で表彰し、イントラネットでの公開のほか社内報でも功績を紹介している。このような表彰や紹介は賃金には直結はしないものの、非常に名誉なことであり「いい仕事をしたという本人のモチベーション向上につながっている」(小泉氏)という。過去には、自分の取組みを発表するコンベンションイベントを実施したこともあり、自身の取組みがソリューションとして全社に水平展開されると、これもモチベーション向上につながったという。また同社はコンピュータ機器の保守事業を営んでいるが、数値での評価が難しいサポート部門についても事例発表や特別貢献賞として表彰を実施し、モチベーションを高めている。

さらに同社では、評価が高くない従業員へのフォロー施策も充実させている。「過去に高い評価を得たことがあるが、現状はパフォーマンスが停滞してしまっている従業員には、本人の努力次第で改善できることも充分にあり得る」(小泉氏)と考え、特にマインド面での教育に注力しているという。このような方は、人間関係などで一時的に心が縮こまっていると考えられるため、外部の講師の力を借りて合宿形式を交えた教育を実施している。

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具体的には、「あなたは過去に高いパフォーマンスができた、そしてその時の経験がある」との認識を本人と共有することから始め、現在停滞してしまっている原因を講師とともに考えてもらっているという。そしてパフォーマンスをもう一度伸ばすために何をすべきかを自分で分析し、こうやれば自分は伸びると実感してもらうことが重要だという。この教育には半年から1年を掛け、人事部門と所属部門が毎月進捗を見守る。その間、部門長からも「是非回復してほしい、会社はあなたの味方」とのメッセージを送る。この取り組みは、実施初年度に70〜80%の従業員が「再生」するという絶大な効果を上げたという。現状ではこの教育に社内講師も参加しているが、「外部講師を呼び外部の風に当てることも重要」(小泉氏)だという。

また、上司と部下の間のコミュニケーション促進にも注力している。同社では年に3、4回業績目標に関する面談を実施する。1回あたりの面談時間は30分程度とさほど長くはないし、目標設定自体もWebやメールで済ませることはできる。しかし「しっかり対面で話をする時間が取れるという副次効果」(小泉氏)が想像以上にコミュニケーション促進に役立ったという。

●しっかり休む 病気はとにかく治療

最後に、福利厚生制度、特に休暇と健康についての制度を伺った。
 同社では、通常の有給休暇に加えて、5年ごとに5〜10日の有給リフレッシュ休暇が利用できる。またプレミアムフライデーキャンペーンを自社に適合させ、四半期の〆月を除き月に1度は半日有給休暇を取得できる。

同社の有給休暇取得率は60%程、半日有給休暇の取得率は70〜80%と、かなり高い割合であり、取得率も昔に比べてだいぶ増えたとのことだった。

さらに取り切れなかった有給休暇は100日まで別途積立可能であり、病気療養や育児休暇等に使えるとのことだった。お話を伺った広報・IR課の岸氏もこの制度を利用して休暇を取り、育児に利用されたという。

小泉氏は「本来、有給休暇はそこまで積み立てるものではない」と苦笑いされていたが、100日までの有給休暇積立は、他社では例を見ないほど素晴らしい制度である。

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健康面についても、同社ではほぼ全員が毎年定期健康診断を受診しており(受診率98.5%)、35歳からは全額会社負担で通常コースの人間ドックを受診することが出来る(さらに1万円までのオプションも会社負担)。しかし特筆すべきは受診後のフォローである。同社では3年前に産業医と相談して、診断結果が正常範囲でない場合は、必ず治療に行き、かつ治療の証明をもらうことを命じているという。

健康診断で正常と言えない状態の従業員については、以前から栄養士や健康管理スタッフが日常の食事指導をしていたが、なかなか改善されなかった。しかし証明を伴う治療を命ずることが加わってからは、罹患率が50〜60%改善されたという。指導ではなく治療の効果の大きさに、小泉氏も非常に驚いたという。

従業員の健康は長期的には企業の安定経営につながることもあり、これもまた素晴らしい制度であると言えよう。

●おわりに

お話を伺って、安定した経営には従業員のマインドセットや健康がいかに重要か、を改めて認識した。従業員のパフォーマンスを取り戻すための施策は、かつてのプロ野球での「野村再生工場(※)」を思いださせる。(※野村克也氏が監督を務めた球団において、複数の伸び悩む選手や戦力外だった選手を復活させて活躍させることに成功したことから、マスコミからこう呼ばれた)

また施策実施だけに留まらず、効果的なフォローを実施することが、従業員満足に高い効果をもたらしていることを実感できたインタビューであった。

【写真】 インタビューを終えて
【写真】 インタビューを終えて

 


 
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