インタビュー連載「日本の人事と内部不正」<第13回>

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ソニー株式会社

【ソニー株式会社の概要】
■設立:1946年5月7日    ■所在地:東京都港区港南    ■従業員数:117,300名(2018年3月31日付)
■資本金:8,657億円(2018年3月31日現在)
■事業内容:モバイル・コミュニケーション、ゲーム&ネットワークサービス、イメージング・プロダクツ&ソリューション、ホームエンタテインメント&サウンド、半導体、コンポーネント、映画、音楽、金融及びその他の事業

はじめに

【ソニー設立当初から続く「自由闊達」な文化】

1946年1月、「東京通信工業株式会社設立趣意書」が、ソニーの創業者のひとり、井深 大氏によって起草された。その中にある会社設立の目的に、今現在も人々の間で話題になることの多い有名な一文がある。

一、真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設

今回インタビューに伺って一番多く飛び交った単語が「自由闊達」というキーワード。
今も「この想いが脈々と根付いており、ここに惹かれた人が集まっているのが“ソニー”という会社なんだ」とお話をお伺いする中で強く感じた。今回は、ソニー株式会社 人事センター長 望月氏、ソニー株式会社 人事センター ダイバーシティ&エンゲージメント推進部 統括部長の足立氏のおふた方からこれまでの取り組みを聞かせていただいた。

【写真】ソニー株式会社 足立氏(左)ソニー株式会社 望月氏(右)
【写真】ソニー株式会社 足立氏(左)ソニー株式会社 望月氏(右)

●活きいきと働けるためにチャレンジする

「一度しかない人生、自分の幸せをソニーの中で見つけられないと思ったら早く辞めなさい。人生で一番大事なのは自分と自分の家族なのだから。会社に忠誠を尽すよりも自分に忠誠を尽しなさい。そして、あなたが本当にソニーで働くと決めた以上は、あなたとソニー、お互いに責任がある。あなた方も、いつか人生が終わるそのときに、ソニーで過ごして悔いはなかったと思えるようにしてほしい」
ソニー創業者のひとり、盛田昭夫氏が入社式で伝えていた言葉だ。
何年経っても「今ソニーの中でやりたいことができているか」を再確認する起点となる強烈なメッセージだ。そしてそのチャレンジ精神を応援する人事制度がある。

【社内募集制度】
・ 年に数回、社内の求人情報がオープンに社員に提示され、現職場での仕事が2年以上であれば、上司を通さず自身の意思で応募が可能 ・ 社内選考に合格した社員の上司には異動の通知がされる。上司には拒否権はなく、上司の立場からその異動をサポートする。
・ 制度に応募してから3ヶ月以内に異動
この制度を使って異動をするのは年間200から300人ほど。今が嫌だから異動するのではなく「チャレンジする事」がベースになっている。自分がやりたい事を実現するには非常に優れた制度だが、社内異動が部下の意思だけで成立するとなると、チームをまとめる上司は苦労が多いのではと思われるだろう。しかし、ソニーの上司は部下が考えているキャリアへの想いを探りつつ、常に部下がやりがいを感じる環境を整備し、やりたい事の実現を手伝うことも役割だと認識している。部下は自身のキャリアを自分で作っていくポジティブな姿勢で上司としっかり相談し、やりたいことを実現する。「個と場」(ことば)を繋げれば、個人と会社双方の成長につながる。ソニーでは事業上のミッションを達成することと、個人の挑戦の精神双方がキーであることを全員が知っており、良い緊張感を持って継続してキャリアを考えていくのが当たり前というカルチャーが根付いている。
また、ソニーでは役職をつけて人を呼ばず、「○○さん」と「さん付け」で呼ぶ文化がある。上司が部下に対する場合も同様だ。組織のヒエラルキーに縛られた人間関係が作られてはいけない、同じ目的に集うメンバーは個々人としては対等な関係で、多様な意見を尊重したいという姿勢から生まれている文化で、こういった土壌からも上司と部下の良質なコミュニケーションが自然と生まれやすいのだろう。

●もっと良くするためにはどうしたら良いかを常に考える

従業員満足度向上のために意識調査を行っている会社は年々増えてきおり、従業員満足度が高まれば離職率は低下し、企業業績の向上にも貢献する。企業価値を高めるためにも、従業員満足度を把握し高めることが注目されている。

【社内意識調査】
ソニーでは特に社員エンゲージメントを向上させるというコンセプトで毎年の社員意識調査を行っているが、その回答率は90%を越えており、一般的な水準と比べると高い数値だ。この調査では、記入者の匿名性を担保した上で、自由にコメントを記載することを可能とするなど、多様な意見を集めることができるなどの工夫をしている。この手の調査では、従業員への調査結果の開示を一部のみにしている会社も多い。しかし、ソニーでは全体の結果については全社員が閲覧できる上、それぞれの部署では結果を共有し「今年の結果はこうだったけど、どう思う?」と上司と部下の会話を生み出すきっかけにもなっている。

【社内相談窓口】
また、「言いたいことはしっかり言える体制が必要不可欠」という考えから設置している社内相談窓口は、独立性を高くする形で運用しており、職位などの立場によらず、多様な内容の相談が寄せられているそうだ。働くうえでの障害をしっかり取り除き、個々の技能を「自由闊達」に発揮してもらいたいという会社の強い意思を感じた。

●自身で考える自分のキャリア

「やりたいと思っている人がやるのが一番成果が上がる」という考えから、自分が何をしたいか常々考えながら仕事をしている自律型の人間が多い会社がソニーである。その背景には現担当業務に対しての「動機付け」だけでなく、キャリアへの動機付けを丁寧に時間を掛けて話し合うシステムがある。それがキャリア面談だ。

【キャリア面談】
年に1回ある「キャリア月間」に部下と上司がキャリアを語る面談で、年間の目標管理のための面談とは別に設けることになっている。 前述した社内募集制度以外にもその時々の事業ニーズで異動が起きる環境なので、キャリア月間以外でも上司と部下が「今やりたい事が出来ているか」、「何が足りないか」とキャリアを語り合うことは推奨されているが、制度として全社で導入しているのが、このキャリア月間である。

ソニーのキャリアパス形成支援には、業務上に必要なスキルや資格取得の支援、エンジニア対象の海外留学支援など多種多様である。その中でも特筆に値するのが「ベテラン社員向けのキャリア研修」。50代は、50歳と57歳でこのキャリア研修が全員必須となっている。受講後に社員一人ひとりに社内メンターが付くことが大きな特徴である。ベテラン社員が主体的かつポジティブに自分の人生を考え60、70代になってもそれぞれの人生のステージで活躍できるようになることを目指している。また、ライフプランの検討には欠かせないマネープランを考えるための支援や、社内でのスキルアップに加え、ソニー卒業後の活躍に向けたチャレンジとして、 学び直しをしたいベテラン層を対象として、会社が支援対象としているものであれば補助を出すなどの形で応援を行っている。まさに人生100年時代を見据えたキャリア支援になっているのではないだろうか。

●会社を支える社員への想い

CSRや環境を含め、社会貢献の観点からも様々な取り組みをされているソニーだが、ここでは「社員は家族の支えがあって初めて良い仕事ができる」ということを理解しているからこその施策を2つ紹介したい。

【ランドセル贈呈式】(2月末)
1959年、ソニー創業者 井深大氏の発案から始まった「ランドセル贈呈式」。社員の負担を少しでも軽くしたいということもさることながら、一緒に働く人間として家族の節目をお祝いしたいという想いから発足したそうだ。社員の家族で小学校へ入学する子どもを対象に、ひとりずつランドセルを手渡しで贈る。このイベントは今も連綿と続いており、2018年ついに親子3代でランドセル贈呈されたご家族がいたそうだ。

【写真】 ランドセルを手渡す井深氏
【写真】 ランドセルを手渡す井深氏

【ファミリーデー】(年に1回)
ソニーで働く社員のご家族を対象とした職場参観日。ご家族を職場に案内することによって、 仕事への理解を深めてもらうことに加えて、楽しくソニーという会社に触れていただきたいという想いで開催されている。イベントスペースでご家族が楽しめるイベントを用意するのみならず、各職場でも社員全員がその日は家族をウエルカムする姿勢でいることが鉄則である。例えば同僚のお子さんのためにお菓子を用意する社員なども多く、社員食堂脇のコンビニではそれを意識したラインナップが準備される事業所もある。事業所毎に創意工夫をこらしてグループ全体で取り組んでいる。

おわりに

「ソニーは何をしている会社なのか?」、この問いかけに対して、思い浮かぶ答は人によって違うことだろう。企業グループとしての代表的な事業だけでも、テレビ・オーディオ・カメラ・モバイル・半導体などのエレクトロニクス領域、ゲーム・音楽・映画などのエンタテイメント領域に加えて金融領域など多種多様である。 ソニーは、日本を代表する企業のひとつであるが、事業内容がここまで幅広い企業はそう多く無いだろう。
「働き方改革」が叫ばれている昨今、今回のインタビューの前には「先進的なイメージが強いソニーではどんな取り組みをしているのだろうか」、「何か突飛なことをやられているのではないか」という、興味が先にたつ半分浮ついた気持ちもあった。 しかし、実際にお話を伺ってみると、常に創業当初の想いに立ち返り、今やれる事を実直に行なっている、実に真面目な職場との印象を強くした。

「真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」という井深氏の理念、「やりたい事が無くなったらソニーをお辞めなさい」という盛田氏の言葉が今も生き続け、それが連綿と受け継がれている職場、それがソニーなのだ。それを、今回インタビューに対応頂いたおふた方の言葉の端々から強く感じた。
創業からの精神が今も色褪せず連綿と受け継がれ、一人ひとりの社員の行動にまで、自然な形で根付いて成功している会社はあまりない。
夢に向かって、「新しいもの」を活きいきと自由につくっていこうという「自由闊達」な雰囲気、これが満ち足りた会社は、一言で「おもしろそう」。社員が楽しそうに仕事している職場からは「やりたい事がない」、「指示待ち」というイメージは出てこない。

「働く人々のチャレンジ」を応援する姿勢がしっかりと根付き、そのための制度が充実する中で、「コミュニケーション」に一番気をつかい、時間も取っているというところに、ある種の人間臭さと原点回帰を見た。

そのコミュニケーションは、自分の人生を通して「ソニーでやりたい事をやるため」に生まれるものだ。そして、それは「個人が成長すれば会社も成長するため」でもある。ここで行われているコミュニケーションは「自分自身と会社の成長に直結する」ことが強く意識されている。そのため、非常にポジティブかつ、一定の緊張感があり、馴れ合いも生まれづらくなっている。

 

本ワーキンググループでは、「組織で働く内部の人間が引き起こす不正」を防止するための対策を、イソップ寓話の「太陽と北風」の例で説明している。職場としてのソニーでは、創業時の精神が受け継がれて文化として定着しており、それがそこで働く人々の間で、濃厚なコミュニケーション(「個と場」(ことば)を繋げる)が生まれる土壌となっている。今回のインタビューでは、この職場環境、文化、これらがまさに意識しないうちに「太陽的な対策」になっている姿をかいま見させていただいた。これは、一朝一夕に真似できるものでは無い、創業時から培われ続けてきたぶ厚い「組織文化」が、ソニーという職場で働く人を幸せにしているのだ。
今回のインタビューは、コミュニケーションとは何なのかを深く考えさせられる機会となるものであった。世の中のIT化が進む中で、希薄になりがちな「人と人とが繋がることで生まれる力」を改めて見直してみたい。

 


 
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