インタビュー連載「日本の人事と内部不正」<第8回>

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サイボウズ株式会社

【サイボウズ株式会社の会社概要】
■設立 :1997年8月
■所在地 :東京都中央区     ■従業員数 :643名(2016年12月末 連結)
■資本金 :6億1,300万円(東証一部上場)   ■売上高 :80億3,900万円(2016年12月期連結売上)
■事業内容:グループウェアの開発、販売、運用

●サイボウズについて

サイボウズは、2017年で起業20年になる。手ごろな価格で簡単に扱えるWebベースのグループウェアを提供することで、現在は製品を600万名以上に提供する企業にまで成長した。サイボウズが提供する価値は、単にITツールを使ったコミュニケーションというわけではない。チームワークの向上である。グループウェアによって、離れた場所、異なる時間でも情報共有が可能となり、世界のより多くの人々が素晴らしいチームワークを発揮できるようなる、そういった目標の実現を目指して取り組んでいる。

サイボウズは、かつて離職率の高さに悩まされていた。それをどうワークスタイル改革で解決したのか?今回、第8回目のインタビューは、2017年3月にサイボウズ社を訪問し、事業支援本部 本部長 中根氏とセキュリティ室 明尾氏にお話をお伺いした。中根氏は、サイボウズのワークスタイル改革の責任者であり、明尾氏は情報セキュリティ推進を担当している。

サイボウズ社 中根氏(右)、明尾氏(左)
サイボウズ社 中根氏(右)、明尾氏(左)

●オフィス

日本橋のオフィスに入ると、そこには、おしゃれな空間が広がっていた。サイボウ樹パークという。中央にはヒツジとキリン、そして、右にはペンギン、左奥には大きなボウズマンが立っている。ボウズマンとは、サイボウズの製品・サービスを象徴する企業キャラクターである。地球上のビジネスパーソンの危機を救うため日夜奔走しているイントラの星からの使者である。向かいの窓からは、正面に東京スカイツリーも見える。訪問者を出迎えてくれるこのパークのゆったりとして楽しい雰囲気が、サイボウズの働く人々への取組みを象徴しているようである。

サイボウ樹パーク
サイボウ樹パーク

ボウズマン
ボウズマン

内部不正対策WGでは内部不正対策をイソップ寓話の太陽と北風に例えて説明してきた。その分類でいうと、サイボウズは太陽的対策の典型である。サイボウズが太陽的対策を導入することになった背景をお聞きした。

●サイボウズの基本は、チームワーク重視

本題に入る前に、まず、サイボウズという企業の理念について、おさらいしておこう。サイボウズの理念は、世界のより人々が素晴らしいチームワークを発揮できるようにすることである。だからサイボウズ自身、当然、個人プレーではなく、チームワークを重視する。一方、会社制度としても、個人の売上のような業績を賞与に反映するようなことはしない。賞与は会社全体の業績が反映される。

チームワークにとっては、まず信頼関係が必要である。信頼関係のないチームワークなどありえない。さらに、従業員間で理想を共有していれば、チームワークの効果も上がる。

サイボウズは、こういった企業である。

インタビュー風景 中根氏(左)、明尾氏(右)
インタビュー風景 中根氏(左)、明尾氏(右)

●実は離職率がワークスタイル改革の背景

こういったサイボウズでも、意外なことに、かつて、離職率の高さに悩んでいた。2005年には28%にもなった。ビジネス拡大のために企業買収を行い、外観上会社は大きくなったが、退職者は後を断たなかった。

そうした状況を打開するため、2007年、抜本的な方向転換を決断した。2008年から2010年に事業を整理し、企業ビジョンも再定義した。従業員の声を聞き、ワークスタイル改革を行った。そうしたところ、離職率は下がり続け、2012年、4%にまで下がった。その後も落ち着いている。

また、ワークスタイル改革によって、2012年経済産業省ダイバーシティ企業経営100選に選ばれ、2015年働きがいのある会社ランキング(〜999人規模)では3位になった。

サイボウズの従業員数と離職率の推移
サイボウズの従業員数と離職率の推移

●ワークスタイル改革

さて、サイボウズではどのようなワークスタイル改革を行ったのだろうか?

サイボウズでは、ワークスタイル改革成功の要件として、制度、ツール、風土を挙げた。

ワークスタイル改革では、まず、サイボウズでの共通の理想というものを明確にした。それを、サイボウズではAction5+1と名付けた。

ワークスタイル改革成功の要件
ワークスタイル改革成功の要件

共通の理想Action5+1

Action5+1とはどういうものだろう?
1. あくなき探究
2. 知識を増やす
3. 心を動かす
4. 不屈の心体
5. 理想への共感
+1 公明正大

サイボウズでは、この共通の理想の下に集まった集団のことをチームという。ただ、制度もツールも、使って活かせるかは、人とチーム次第である。人とチームは風土次第。サイボウズでは、Action5+1を基に、新たな風土を作っていこうと考えた。今回のインタビューでは、この風土を中心にお聞きした。

まず、Action5+1は何なのか、チームワークに深く係る3. 心を動かす、5. 理想への共感、そして+1公明正大について詳しくお聞きした。

●心を動かすとは

サイボウズでは、社長がこうしろと言ったからといって、従業員が全員素直に従うというわけではない。実は、サイボウズでは、説明責任以外に、質問責任というものがある。社長の指示、本部長会の決定、会社の制度などに疑問がある場合は、質問をしなくてはいけない。従業員からの質問がなければ、会社側も制度に問題があるかどうかが分らない。本部長会で議論して決めたことに対して、現場から異議があり、再度、本部長会で議論が行われることもある。従業員からは、厳しい質問が寄せられるという。例えば、同社新オフィスの特徴的なエントランスのデザインについて、意見が大きく分裂した。ITらしいスタイリッシュなデザインがよいという者もいた。オフィスのデザインに正解はない。だからこそ議論が巻き起こる。これに対し、意思決定者がどういうコンセプトで決定を下し、説明責任を果たすかが大事になる。

当然だが、サイボウズでは、社内のコミュニケーションにグループウェアを利用している。質問から炎上が起きてしまうこともたびたびあるという。ただ、炎上が起きるのは、質問者にも問題があって、Action5の一つ、「心を動かす」が不十分な場合だそうである。「心を動かす」の能力さえあれば、炎上させずに、うまく疑問、要望を挙げることができるという。

●理想への共感とは

サイボウズの理想への共感は、人材の採用の基準でも、従業員の評価でも重視されている。改革の中でも、サイボウズの理想に共感してくれる人材が会社に留まってくれた。これが、離職率が現在は低くなっている要因の一つである。

サイボウズでは、毎年、このAction 5+1を使って、従業員一人ひとりの目標設定と評価を行っている。このAction5+1を高めることによって、チームのチームワークとアウトプットが向上するという。Action5+1の評価が報酬に反映される。

●公明正大とは

信頼の前提となるのが、嘘、いつわりのないこと。サイボウズでは、多様な人が多様な価値観で働いている。そういった職場でよいチームワークを実現するには、互いの信頼が非常に重要である。嘘、いつわりのないこと、それが公明正大である。公明正大でオープンな環境こそ、チームワークの基本である。

本部長会の議事録も公開可能なものは公開している。イベントの補助の領収書も出張費も、交際費も社内では全て公開している。3M(Monthly Message Meeting)という会議を毎月一回夕方に開いている。社長からメッセージを出す。出席できなかった従業員も議事録を見ることができる。

●実際にワークスタイル改革を進めていくと

実際にワークスタイル改革を進めていくと、Action5+1を実現するために、重要なことがいくつかあることが分かった。それは、多様性、発言の場、達成感の三つである。

●多様性な働き方を可能に

サイボウズは、チームワークを維持する一方で、多様で優秀な人材に働いてもらって個人・チームの生産性を向上させるため、従業員の多様性も重視している。100人いれば100通りの働き方があってよい。公平性よりも個性を重んじることで、一人ひとりの幸福を追求するというのがサイボウズの考え方だ。

なぜ、サイボウズでは多様性を重視するようになったのだろう?サイボウズに集まった集団の一人ひとりには、それぞれ個性があり、強みがある。サイボウズでは、かつて離職率が高く一体感がなかった。その問題の解決を考えていく中で、一人ひとりの多様性の尊重があってこそ、チームワークの成果が出るのではないかという考えにたどり着いた。多様性とチームワークは一見すると矛盾しているように見えるかもしれない。しかし、実は、多様性を重視し、個人の幸福を追求してこそ、一人ひとりがチームとして理想に向けて協働する。こういった考えの下、サイボウズでは、ワークスタイル改革の中で、多様な従業員一人ひとりが望む働き方ができる環境、つまり、多様な働き方ができる制度を整備していった。 制度を幾つか紹介しよう。

変わったところでは、副業(複業)許可制度と育自分休暇という制度がある。副業(複業)許可制度では、会社の業務などに関係しない副業なら、上司の承認なしで自由に行うことができるようにしている。例えば、技術誌への寄稿、カレー屋勤務、NPO勤務、経営コンサルや、SI企業での勤務など。自分の本業でのスキルを活かしたものから、関係性の低いものまで様々だ。サイボウズでは、金銭的報酬がないものも含めて価値創造活動全般を複業ととらえている。育自分休暇は、社外での経験を積んだメンバーに再びサイボウズにジョインして活躍してもらい、組織の強さを高めるための制度である。これまで、退職社員6名がサイボウズに復帰している。

サイボウズでは、選択的人事制度を採用している。どういう働き方をしたいか、9種類から選択する。つまり、働く時間、スタイルを従業員一人ひとりが自分で考えるわけだ。だから、従業員に自律が求められることになる。全社一斉プレミアムフライデーといったお仕着せはしない。大人の会社である。長く働くのも自由。ただし、心と体のバランスが保てなくなるほど働くのは、長期的に見るとアウトプットに影響するので、それはNGである。もう一つ、早く帰りたい人が帰りにくくなるような雰囲気を作るのもNGである。サイボウズでは、夜型エンジニアは少ない。

●発言の場を用意

コミュニケーションの手段はグループウェアだけではない。サイボウズでは、社内の縦横、部内のコミュニケーションを活性化するため、多種多様な手段を用意している。横のコミュニケーション支援としては、部活動支援、誕生日会、仕事Bar(仕事について語る場)、イベン10(単発イベントへの補助)といった費用補助支援制度がある。補助を受けたら、イベントについて、全社掲示板で報告しなくてはいけない。皆、文もうまいし、写真もうまく使って、イベントの様子を伝えているという。

サイボウズ・オブ・ザ・イヤーという表彰では、感謝を伝えたい従業員への投票が行われ、得票数で表彰が行われる。投票はコメント付きで行われ、各人は、自分への感謝の声を知ることができる。また、人事部に感動課といった変わった部署があり、専任担当者がいる。感動課は、「職場に感動を!」をスローガンに社内に感動の種を見つけ感動の華を咲かせることをミッションとしている。社内イベントや研修、日々の業務を感動あるものにしている。例えば、顧客サポート部門は日々、顧客からの問合せ、要望、クレームの対応を行っているが、この対応を社内の他部門のメンバーが知る機会は少ない。だが、中には顧客のクレーム対応に真摯(しんし)に向き合った結果、顧客からの信頼が厚くなるようなケースがある。そういうものを、顧客の生の声として取材し、その苦労や感謝を可視化して感動的に社内に展開する。

マネージャ評価というのもある。これは、マネージャ以外が、マネージャを評価する制度である。マネージャは自分の上司には限らない。どのマネージャに対しても匿名でコメントを出すことができる。コメントはマネージャ本人に4月に届く。人事部門など全社に係る管理部門のマネージャだと、全社から多数コメントをもらうことになる。マネージャには、厳しい施策だが、それに正面から向き合うのがサイボウズである。

「多種の支援制度のうち、どの制度が最も効果があるのか?」と質問した。回答は、「どの制度が他よりもいいということではない。従業員が自由に発言できる場を、従業員の多様性に合わせてそれぞれの制度で用意している、つまり、多種用意しているところにポイントがある」ということだった。なるほどと理解できた。従業員側としては、そういった場をうまく活用して発言することで、評価もされる。一方、管理部門やマネージャにとっては、大変である。聞きたくない話も聞かなくてはいけない。

●一人ひとりに達成感を

サイボウズでは、Action5+1について、各従業員の目標を設定し、達成度を評価する。現在と将来の報酬額についても率直に話す。もちろん、不満が出るときもある。そういったときは人事部が対応する。

IT業界では、ともすると、金銭報酬だけに目が行きがちである。しかし、従業員によっては、金銭報酬が最重要というわけでもない。例えば、成長の機会とか、海外出張の機会とか、そういったものを重視する者もいる。自由な働き方が好きな者もいる。 サイボウズとしては、従業員に長期間働いてほしいと考えている。各人にとって何が重要なのか、それを本人とマネージャに認識してもらうために、面談時に将来、いくらの報酬を得たいのか、また、それが高い報酬なら、今から、どういう働き方をしていく必要があるか、そういったことを率直に話す。これによって、従業員一人ひとりに、仕事での満足感、成長の実感、チームに貢献しているという達成感を持ってもらえると考えている。

●まとめると

以上、サイボウズでのワークスタイル改革のポイントをまとめると、次のようになる。
・ Action5+1という共通の理想を共有する(心を動かす、理想への共感、公明正大)
・ 多様性を重視する
・ 発言の場を多数用意する
・ 一人ひとりに達成感を持ってもらう

●北風的対策も

これまで、サイボウズでは、あまりに、太陽的対策ばかりだったが、それではバランスが悪い。当然、従業員の操作ミスもあり得る。今後は北風的対策として最低限のセキュリティ対策も取っていく必要があるかの議論も始めた。従業員のアクセスに、新たな制御や監視を導入することも検討しなくてはいけないと考えている。

インタビュー風景(北風的対策の議論)
インタビュー風景(北風的対策の議論)

●おわりに

サイボウズは、“グループウェアによってチームワークあふれる「社会」を創る”ことを目指している。だからこそ、自らもチームワークを第一に優先し、それが実現されるよう、会社として取り組んできた。しかし、そういった企業でも離職率の問題が起きた。サイボウズのすばらしいところは、そういった厳しい状況の中で、もう一度企業ビジョンであるチームワークとは何なのかを見つめ直し、チームワークの観点からワークスタイル改革を行ったことだ。

サイボウズでは、従業員の意見を積極的に聞く、それは、管理者・管理部門にしてみれば、勇気のいることだ。そういったことに積極的に取り組むことでこそ、成果が出る。内部不正対策を徹底したい企業ならぜひ本記事を参考にしたい。

なお、サイボウズのワークスタイル改革の取り組みの詳細はホームページで確認できる。
サイボウズのワークスタイル改革の取り組み
https://cybozu.co.jp/company/work-style/


 
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