インタビュー連載「日本の人事と内部不正」<第5回>

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株式会社ガイアックス

【株式会社ガイアックスの会社概要】
■設立 :1999年3月5日     ■所在地 :東京都品川区      ■従業員数 :380名(連結・正社員)
■資本金 :1億円
■主な事業内容:ソーシャルメディア・シェアリングサービス事業、インキュベーション事業

「起業家輩出企業」と呼ばれるガイアックスでは、その代名詞の通り、起業を目指す人々が集まる会社である。

今回ご紹介するガイアックスは、新卒入社から卒業したメンバーの70%が起業するという特異な組織文化を作り上げており、一般的な企業と比べ1人1人の自律性が高い。一方で、優秀な若手が巣立っていくのは憂慮すべき状況にもみえるが、ガイアックスの社風を知るとそんな状況も納得出来る。

取材を受けて頂いた広報担当の木村氏
取材を受けて頂いた広報担当の木村氏

「フリー・フラット・オープン」
それが、ガイアックスという社風です。そう語ってくれたのは広報担当の木村氏。

ガイアックスは大手メーカーのソーシャルメディア運用やキャンペーンの企画、部署の壁を越えて企業内の活性化を促進することを目的とした社内SNS「エアリー」事業や、個人と個人(C2C)をつなぎ個人が持つ資産を有効活用してビジネスを行うシェアエリングエコノミー事業、また有望なベンチャー企業への投資事業など多角的な事業経営をしている企業である。

Great Place to Work(R) Institute Japan社が実施する「働きがいのある会社」ベストカンパニーに2011〜2016年度で6年連続で選出され、仕事や職場環境に関する意思決定への従業員の参画が高く評価を得ている。取材を進める中で、その選出理由はガイアックスのアントレプレナーシップを育む文化にあると感じた。以下にガイアックス独自の制度や取り組みを紹介する。

●アントレプレナーシップを育む文化

山北氏、川尻氏
山北氏、川尻氏
山北氏、川尻氏

●ガイアックスの文化を表す3つのキーワードと取組み

1.FREE
思いを形にする文化

アントレプレナーシップの根幹は「世の中にある問題を解決する」という思い。ガイアックスはその思いを強くもち、一人ひとりが自分で決めた人生を歩むことを推奨する。そのため、各メンバーがライフプランを作成し、それをベースにキャリア設計や目標設定を行う。ガイアックスは、社員一人ひとりの夢を全力で応援し、各人が事業や仕事にオーナーシップを持って取り組める環境を作っている。

取り組み:
●カーブアウトオプション制度・・・親会社としてガイアックスを母体とするが、新規事業だけでなく、既存事業において、事業が子会社化し、その子会社役員・社員に新規で約45%のストックオプションを発行・付与しオーナーシップを持たせる。
 ・目的:事業に関わるメンバーが経営と資本の面でオーナーシップを高く持つことで、事業成長を加速
 ・成果:第一号として、2014年10月1日にソーシャルメディア運用支援を行うアディッシュ株式会社を設立し、
  株式上場を目指している。

●QCP(Quarterly Coaching Program)・・・四半期に一度、ライフプランに基づいて自分で決めた目標の振り返りと、それにともなう評価(給与額の決定)を自分自身で行う。またその内容を、上司と振り返り、合意を取る。
 ・目的:人材育成の根幹であり、 1人1人が自律的に仕事や成長の目標を立てそれに取り組むこと、結果として納得感のある
  給与・人事評価をする。
 ・成果:1)自律的に目標設定するというカルチャーを醸成している。2)1人1人の仕事の目標は全従業員の間で共有されて
  いるので、誰が何を考えて仕事を頑張っているのかを共有している。

受付に置いてあるGreat Place to Workの表彰盾
受付に置いてあるGreat Place to Workの表彰盾

2.FLAT
自ら決断する文化

現在のように変化が激しい市場環境では、社長が必ずしも正しい判断を下せるとは限らないため、自分自身が常に決断し、行動を選択できなければならない。ガイアックスでは、全てのメンバーがそれぞれの分野で十分な情報を得て、それぞれで最適な判断ができるようになっている。事業提案、組織運営などすべての分野で手を上げて自分が責任をもって進めることができる。

取り組み:
●クロススタートアップ制度・・・社内新規事業コンテスト。採択されたら必ず予算がつき、実行される。それ以外にも、経営会議に誰でも出すことができ、採択されれば実行される。
 ・目的:会社の長期的な成長のために、ミッションに基づいて、事業基準を満たしたビジネスを立ち上げることと、
  次世代の事業リーダーの選出と育成。
 ・成果:年2回開催される新規事業コンテストにて通過した事業案は、会社から予算が与えられ事業の立ち上げに携わることが可能。

●BRF(Budget Result Forecast)・・・各事業の予算・結果・業績予測の数値による経営管理に、リアルタイムで全ての社員がアクセスできるしくみ。
 ・目的:経営視点で物事を捉える力を付ける。
 ・成果:社員が常に経営者視点を持って自ら決断できる。

 

3.OPEN
シェアと協動の文化

もはや一社の中で情報を独占し、会社の人とだけ働く時代ではない。情報を社内外にオープンにし、多くの人と協業していくことこそがイノベーションを産み、社会課題を解決していく。ガイアックスでは社内研修をオープンにする、全社員に取締役会を含む全議事録を公開するなど、徹底的にオープンな環境を作り、すべての人が自分で判断できる環境構築を進めている。

取り組み:
●ガイアキッチン・・・事業の枠を越えて、月1回想いや課題の共有。更に社外講師を招いて学びを共有。外部の参加者を受け入れることもある。
 ・目的:事業を進める中で出てくるノウハウ・想い・課題を事業の枠を超えて、全体として共有し、一人だけ、一つの事業だけ
  では生み出せない力をガイアックスとして出せるようにする。
 ・成果:事業の枠を超えてディスカッションをすることで、事業の枠を超えてノウハウが共有されるだけでなく、大切にしたい
  想い・考え方の共有につながっている。

●情報共有・・・経営会議や全事業のレビュー議事録などの経営情報に全ての社員がアクセスできるしくみ。
 ・目的:経営陣・部長陣とメンバーとの情報格差が起きないようにする。
 ・成果:1)自部署以外の進捗を知ることができるだけでなく、お客様から寄せられた喜びの声などを部署を超えて知ることが
  できる機会となり、社会に与えている価値を知ることができる。2)各部署の取り組みをプロセスから知ることができるため、
  自部署以外のメンバーの事業に対する想いや経験を聞くことができ、全社としてストーリーを共有することができる。

「Wantedly Award 2016」において、「採用力大賞」を受賞した際の様子
「Wantedly Award 2016」において、「採用力大賞」を受賞した際の様子

●効果的な人事施策

ガイアックスでは上記社風のもと、固定的な役割に縛られることなく、社長から現場社員までが各々、自由度を高くもって枠を越えた協働をしている。そして、その上に下記のような人事施策があることで定着率の高い状態を維持できている。その取組みを以下紹介する。

●採用に関する取組み・・・面談回数を定めない、お互い納得するまでの面談選考
 ・一次面談から1対1の個別面談を、面談回数を定めず、お互いに納得するまで複数回実施(4回〜8回以上)。
  選考では志望動機や、「会社で何をしたいか」ではなく、「人生を通じて成し遂げたいこと、貢献したいこと」という
  ミッションの一致を重視している(ライフプランの共有を重視)。

●社内活性に関する取組み・・・社員総会や合宿(冬=事業方針共有、夏=レクレーション)
 ・冬の社員総会は会社のビジョンや事業の今後の展開を発表し合い、会社の事業全体をメンバー同士で共有、夏合宿は
  料理対決やバーベキュー、カヌー・川下りや全員での運動会などを楽しんだりして交流を深める(直近は全員で運動会
  やBBQを実施)。

2016年9月に実施した夏合宿の様子。総勢130名が参加。
2016年9月に実施した夏合宿の様子。総勢130名が参加。

●ダイバーシティ/CSRに関する取組み・・・ダイバーシティ推進委員会、LGBT委員会
 ・「育児休業取得者や復職者」「育児休業を抱えるチームメンバー」「家族を持つ男性社員」「若手女性社員」等課題意識が
  近いメンバーの声を属性毎にヒアリングする機会を委員会のメンバーを中心に設け、そこでヒアリングした意見をもとに
  経営陣に働きかけていく活動。リモートワークの実践により本来やるべき業務に集中できる環境を準備し、社員満足度の
  向上に注力。また、トランスジェンダーや宗教に配慮された仮眠室兼礼拝・瞑想スペースやトイレを備えている。

●最後に

今回のガイアックスのインタビューを通して幾度も衝撃を受けた。今まで聞いたことがない非常に面白い取り組みばかりだったからだ。積極的に権限委譲する文化があり社員のモチベーションの高さが伺える。「人が活きいきと働くことのできる職場環境」であることを感じた。

その背景には、上記に挙げた様々な取組みの実施により、多様な人々の多様な働き方を認め、それを推奨している環境がある。 これからの日本は、確実に労働力が足らなくなる方向性で推移する。すなわち「多様な人々の多様な働き方を認め、それを推奨している」 こと抜きでは、これからの日本は回らなくなるのは間違い無い。ガイアックスの様な「多様な人々の多様な働き方を認め、それを推奨している」職場は、間違いなくこれからの日本に求められる職場になるのではないかと考える。

社会にある問題を自分のこととして考えられるようにすること、それが「人と人をつなげる」というミッションによって実現していきたい社会であり、ガイアックスはそんな社会を実現させる企業であるとインタビューを通して思った。

<参考文献>

  • ガイアックス、2016年「働きがいのある会社」6年連続でベストカンパニーに選出
    〜仕事や職場環境に関する意思決定への従業員の参画が高く評価〜
    参照先:http://www.gaiax.co.jp/news/press/2016/0212/
  • ガイアックス、新しい働き方「事業チームでの起業」グロースオプション制度を開始
    ※現在は制度名称を変え、「カーブアウトオプション制度」
    参照先: http://www.gaiax.co.jp/news/press/2014/1001/

 


 
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