インタビュー連載「日本の人事と内部不正」<第2回>
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富士通エフ・アイ・ピー株式会社
■設立 :1977年11月28日 ■所在地 :東京都港区 ■従業員数 :3,981名 (2016年4月1日現在、連結)
■資本金 :180億円 ■売上高 :1,148億 (2015年度、連結)
■事業内容 :アウトソーシングサービス、Webサービス、システムインテグレーションサービス
富士通グループの一員である富士通エフ・アイ・ピーはグループ全体で共有された価値観FUJITSU Wayを軸にしつつ、独自の改善活動など様々な取り組みを通じて会社としての一体感醸成と働きやすい職場の構築に努めている。今回第二回目のインタビューは2016年7月に人事統括部人事部長の山北 洋氏と人材開発部担当部長の川尻 雅之氏に話を伺った。この企業が社内で実施している人事施策や内部不正などの組織内で働く人間が引き起こす不正・事故に対して、どのように捉えて、どのような対策を実施しているのかを以下に記していく。


●FUJITSU Way
FUJITSU Wayとして体系化された価値観が富士通グループ全体で共有されている。「FUJITSU Wayは、社会における富士通グループの存在意義、大切にすべき価値観、および日々の活動において社員一人ひとりがどのように行動すべきかの原理原則を示したものです。」(冊子FUJITSU Way冒頭より引用)とあるように、企業理念、企業指針、行動指針、行動規範の4要素から成り立っている。この内容は2008年の改定以来継続して使用されておりグループ内に着実に浸透している。また普段から冊子、携帯用カード、社内ポスター、Webサイト、社外への公開など様々な手段で社員の意識を高めるとともに、トップが折につけFUJITSU Wayに触れたメッセージを発することで、富士通グループ全体としての価値観の共有を図っている。

●スマートFIP活動(改善活動)
FUJITSU Wayをトップダウンアプローチとすれば、改善活動によるボトムアップアプローチも実施されている。改善活動というとコスト削減などのイメージが強いが、富士通エフ・アイ・ピーでは業務改善の取り組みの他にも、情報漏洩・書類紛失のリスク低減策の一つとして、職場環境改善(5S)活動や、風通しの良い活気ある職場を作ることを目指して、“あいさつファイト!運動”や“さん”付け運動を展開している。2005年から活動を開始した5S活動は、現在は拠点毎に活動を行っている。例えばある拠点では、ルールに違反した箇所・人が一目でわかるよう、巡回時に違反箇所へ“レッドカード”を貼り付け、指摘する取り組みを行っている。(巡回者が改善を確認したら剥がしてよい。)取り組みを開始した当初は一回の巡回で複数のレッドカードが貼り付けられたこともあったようだが、最近は活動が浸透したこともあり、貼り付けられることはほとんどなくなっている。また、改善活動の全社大会が年に一度開催され、この大会自体が会社としての一体感醸成に貢献しているという。このようなイベントに限らず様々な研修後には懇親会が開催されるのが常であり、懇親会には経営陣が必ず参加することでインフォーマルな意見交換がしやすいように配慮している。

●職場づくり支援スタッフ/ワーク・ライフ・バランス
ここまで述べてきた全社的な取り組みに加え、一人ひとりの社員に目配りをした社内的な仕組みも富士通エフ・アイ・ピーでは工夫している。
マネージャーは多忙であり、人事では現場の細やかな対応に限界もある。そこで、各部門の管理部署に“職場づくり支援スタッフ”と名付けた専属スタッフを配置しはじめている。この目的は、人事を中心にいろいろな役割を持ったスタッフが「面」でサポートすることにある。具体的にはマネージャーの相談役といった役割を担うことから、ある程度のバックグラウンドを持ったシニア層がアサインされている。
またワーク・ライフ・バランスの実現には残業時間の管理が欠かせない。36協定といった法令遵守は当然としても、特定の人に負荷がかかりがちな状況はどこにでも存在する。そこで、富士通エフ・アイ・ピーでは残業時間の状況を毎月の経営会議で報告している。これはあくまでも報告でありペナルティが課されるものではない。とはいえ、無意識ではいられないというのが現場の実感だ。さらに現状分析で明らかになった、7割の社員の残業時間が40時間未満という結果を、マネージャーを対象とした職場マネジメント研修でフィードバックすることで、負荷の平準化に向けた上司のマネジメントを強く意識づけている。
●介護・在宅勤務
社員の退職について、一時期減少傾向にあった若手社員の退職が近年増加傾向にあることから、富士通エフ・アイ・ピーでは改めて対応を進めている。しかしそれ以上に気にかけているのが、介護を理由とした退職の増加だ。育児期間中の給与給付や職場復帰などと比較すると、先が見えず長期化しがちな介護に対する支援は国の制度を含め社会的にも極めて不十分な状況にある。現在の介護負担やその後の生活を支えるために富士通エフ・アイ・ピーでは、在宅勤務や再雇用の仕組みなどを検討するワークスタイル変革WGを立ち上げこの問題への対応を進めている。
●人事制度
富士通エフ・アイ・ピーは積極的なジョブローテションを通じて、社員のキャリアアップを支援している。人事の指示による、半期に一度の面談が主な機会だが、Job Challengeと呼ばれる制度が整備されている。これは、通常のローテションとは異なり公募されたポストに対して希望者本人が応募するものであり、応募者と公募部門との両者が合意した場合には、原則として現在の所属部門による異動拒否は認められない。また、富士通グループ全体としてのベンチャー設立支援制度もある。当初は富士通からの融資などが受けられるものの、退職を前提とした片道切符での制度であったが、現在は富士通グループ内への復帰も可能とするなど、使い勝手が改善されている。つい最近、富士通エフ・アイ・ピーから支援制度を活用した事例が生まれた。
●内部不正
内部不正に関しては、コーポレートガバナンス体制を整え、内部統制の整備を図っている。 また、コーポレート、営業、ソリューションサービスの各部門にそれぞれ管理部門が配置されており、3者がトライアングル体制で各種リスクを防止する仕組みを構築しているとともに、不正行為等の早期発見と是正を目的として内部通報制度を整備している。 さらに、マネージャーを対象とした職場マネジメント研修を定期的に開催しており、その中で不正の具体的な事例を用いることで、部下や自身の不正が会社にとって甚大な影響を与えることを理解させるようにしている。
●まとめにかえて
FUJITSU Wayを中心にした体系的かつトップダウンな仕組み、改善活動によるボトムアップ、支援スタッフといった仕組み、経営会議での長時間残業の報告など多面的に働きやすい職場を構築しようという取り組みは素晴らしい。介護は日本社会全体の問題であり今後深刻化していくことが確実なだけに、早め早めに手を打っていこうという姿勢には心を打たれた。特に、FUJITSU Wayについての、「判断に迷ったらここ(FUJITSU Way)に戻ろう。これを守っている従業員は富士通が全力で守る。そういった会社からのメッセージだ」との説明は、理念を並べただけの通り一遍のモットーとは全く異なる、富士通の本気さを実感させてくれた。
二時間にわたるインタビューにご協力いただいた、関係者の皆様に感謝するとともに、本文執筆の機会を与えていただいた、JNSA WGに感謝してこの稿の終わりとさせていただく。
<引用文献>
- 富士通. (2008年4月1日). 富士通グループの理念・指針(FUJITSU Way).
参照日: 2016年6月23日, 参照先: http://www.fujitsu.com/jp/about/philosophy/ - 富士通エフ・アイ・ピー. (2009). 富士通エフ・アイ・ピー サステナビリティ報告書2009.
参照日: 2016年6月23日, 参照先: http://www.fujitsu.com/downloads/JP/archive/imgjp/group/fip/eco/report/2009/028_sr200911sc.pdf
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