組織で働く人間が引き起こす不正・事故対応WGによる人事部門へのヒアリング
<第17回>
| « 第16回 日立製作所 研究開発グループ(前記事へのリンク) |
株式会社NTTデータグループにおける人材戦略と取り組みに関するインタビュー(2025年7月実施)
※本記事に記載の役職等はインタビュー当時のものです。
■設立:1988年5月23日
■代表者:代表取締役社長 佐々木 裕氏
■所在地:東京都江東区豊洲3-3-3 豊洲センタービル
■連結売上高:4兆6,387億円(2025年3月期)
■従業員数:197,800人(2025年3月31日現在)
●はじめに
株式会社NTTデータグループは、1988年に設立された日本が誇る老舗SIerである。現在では世界50ヵ国以上で事業を展開し、グループ会社全体の従業員数が約20万人というグローバル企業に成長している。
多くの従業員を抱え、全世界に拠点をもつ巨大企業である同社は、Global Top Employer 2025[1]に認定されていることからもわかるとおり、「職場で働く社員が安心して力を発揮できる労働環境」を整備していることが客観的に証明されている。
また、IT業界新卒就職人気企業ランキングでも調査開始から常にトップを維持[2]しており、新卒学生から見ても抜群の魅力を持っていることがわかる。
今回、わたしたち、JNSA「組織で働く人間が引き起こす不正・事故対応WG」は、幸いにも同社に従業員エンゲージメント向上に関連する取組みをインタビューさせていただく機会を得ることができた。
インタビュー当日は、株式会社NTTデータグループ 人事本部 HR Management統括部 Labor Relations担当 部長 土佐知志氏、株式会社NTTデータ ソリューション事業本部 セキュリティ&ネットワーク事業部長 鴨田浩明氏、同社 第三金融事業本部 次世代決済技術推進室 自律分散社会ストラテジスト 赤羽喜治氏、の3氏から従業員エンゲージメント向上に関連する取組みをご紹介いただいた。
●2024年度に従業員満足度(エンゲージメント)が大きく向上
土佐氏によると、NTTデータグループでは毎年従業員のエンゲージメント調査を続けており、2023年度の調査では前年度からエンゲージメントの変化はなかったものの、2024年度の調査では8ポイント向上したという。さらにポイント上昇幅に差はあったものの、全部門がポイントアップを果たしていたとのことである。
なお、8ポイントの上昇について、土佐氏からは満足感や、自信を持たれているような雰囲気は感じなかったが、NTTデータグループのような多くの従業員を抱える企業でこれだけの向上は劇的な改善と言ってよいと筆者は考える。
エンゲージメント評価が向上した要因を伺うと「複数の要素が関与するため特定の理由に絞ることは難しい」と前置きをされたうえで、中でも経営者による意思決定の信頼性を問う項目が、調査会社の公表する全体平均値より14ポイント高く、最終結果に良い影響を与えたと認識しているとのことであった。
次からは、今回ヒアリングをさせていただいた3氏よりご紹介いただいた情報から、筆者が従業員エンゲージメントの向上に関係していると考えた取組みを紹介したい。
●経営トップによる従業員との対話
この表題から、どこの企業でも同様の取組みをしているのではないか?と感じた方も多いだろう。確かに経営者が従業員と話をする機会を設けている企業は多いと思われる。
NTTデータグループでも過去から同様の取組みをされていたそうだが、現在、代表取締役社長を務められている佐々木裕氏は、従業員との対話イベントに事前のシナリオがない状態で臨み、さらに対話の様子を社内に公開しているという。
あくまで筆者の個人的なイメージだが、大企業であるほど、従業員との対話イベントを円滑に進めるため、周囲の方が気を使い対話がスムーズに進むような段取りをしてしまう…といったことを想像するが、NTTデータグループはそうではなかった。
このような「経営者が直接、従業員からの生の声を聴き、自らの本気度やメッセージを伝える」ことに加え、その様子を「ありのままに公開する」という誠実な行動があるからこそ、組織で働く人へ、経営者の意思決定が正しいことが伝わったのだと確信した。
●基本的な考え方を集約したOur Wayの刷新
NTTデータグループはTOBにより、2025年9月にNTTの完全子会社となった。これを機に、自分たちの価値をもう一度はっきりさせるため、基本的な考えを「Our Way」としてまとめたという。
NTTデータグループのOur WayはMission、Values、Code of Business Ethicsの3つを円形に配置しそれぞれの関連を示した形になっている(図1)。
このうち、Valuesを何にするかは社員の声が重視されている。まず、全社員へのアンケートで大事にする価値観やワードを募集し、その後、世界中の従業員から立候補で選ばれたおよそ100名の代表者とワークショップ等のセッションを繰り返しながら、最終的に「Respect every voice.」、「Think big. Be bold.」、「Deliver the outcome.」、「Win together.」の4つに決定したという。
このOur Wayについては、このMission、Valuesをどう自分事にするか、チーム単位で考えるValues Weekと名付けたイベントをとおして浸透させていくそうである。 先に紹介した経営トップと従業員との対話会のように、この取組みからも、NTTデータグループは従業員の一人ひとりの考えや行動を大切にする企業であることが、実際の行動によって示されている。
●専門家を育てるプロフェッショナルCDP*1(P-CDP)制度
NTTデータグループでは、日本国内の人財育成の仕組みの一つにプロフェッショナルCDPという制度を設け、従業員個人毎の専門性(スペシャリティ)を向上させる仕組みを運用している。
専門分野は、プロジェクトマネージャやITアーキテクト、コンサルタント、サービスデザイナー、スタッフなど、現在は14種類が定められており、従業員は必ずいずれかの専門分野に属するようにしている。さらにレベルも下位からアソシエイト、シニア、エグゼクティブ、プリンシバルの4段階を定め、実績に応じてレベルアップしていく形になっている(図2)。
この制度があることで、若手社員はもちろん、経験を積んだベテラン社員でも自身の専門分野の中でのレベルアップをモチベーションに技術や実績に磨きをかけることができているという。
この制度のユニークな点は、「同じ専門分野の上位認定を持っている社員が、下位認定を取ろうとする社員の認定を行う」という仕組みで運営されていることである。
同様の制度を持っている企業があったとしても、多くの場合、課やグループなど所属する単位のなかで上司や先輩が部下や後輩を育成することが多いのではないかと思われるが、NTTデータグループでは、所属部門に関係なく後進を育成することができる。
このことで、社内の同じ職種の方との人脈は広がり、所属部門に縛られないコミュニティに入ることができる。その結果、良い成果が共有しやすくなることはもちろん、課題や悩みを解決するためのアプローチも増加するなど、多くのメリットが生まれていることが容易に想像できる。このP-CDPも従業員エンゲージメントの向上に寄与していることは間違いないだろう。
さらにこの制度は20年ほど前からあるとも伺った。P-CDPが長年の取り組みをとおして成熟した仕組みになっていることも、NTTデータグループが様々な時代の変化に対応しながら成長を続けてきたことを後押しした要因になっているに違いない。
なお、この制度で定義される専門分野は事業の拡大等により追加されてきたそうだが、どうしても既存の枠にはまらない方は個別認定する仕組みになっている。今回、お話を伺った赤羽氏もその一人であった。
●社内の成果を拡大させる「デジタルワークプレイス」
NTTデータグループは、社内のコミュニティ活動を後押しする仕組として、「knowler」という自社製品を活用したデジタルワークプレイスを従業員に提供している。
このデジタルワークプレイスでは、個人の研究成果や顧客へ提案した資料、事務手続きのノウハウなど、仕事で活用できる情報はもちろんだが、趣味やおすすめの飲食店といったプライベートに近い情報も共有することが許されており、社内のコミュニケーションツールとして活発に利用されている。
さらにデジタルワークプレイスで、別の方が公開した提案書を見つけて再利用し、受注につながった事例が表彰されることもあり、会社としても利用を後押ししている。結果、社内に眠るノウハウや事例の発掘、暗黙知の形式知化などが実現できている。
自身の頑張りや努力、知識が、他人に認められ評価されることは自己肯定になるため、このこともNTTデータグループで働く価値を向上させているのではないだろうか。
●おわりに
インタビューの場では、ここまでに紹介できなかった「Camp fire」と名付けられた大規模な文化祭的社内イベントをはじめ、ほかにも多くの取り組みをご紹介いただいた。
NTTデータグループが設立されてから37年。この間、取り巻く環境や時代に大きな変化があったにもかかわらず、NTTデータグループは常に成長を続け、現在では冒頭でふれたとおり世界中に約20万人の社員を抱える、「世界を代表する企業」として10 Best IT Services Companies in the World 2025 [5]に選出されている。
今回のインタビューは主に人事施策について伺ったが、そこで知りえたことだけでも柔軟な発想や真摯な取り組み、そしてそれを長く続ける企業スタイルを知ることができた。
現在、ITを含め世界はめまぐるしく変化をしており、NTTデータグループ自体も大きく変わっている最中である。もちろん課題もあり、今回のインタビューでもグローバルをターゲットにした人事制度の立ち上げや運用など、悩みの一部を伺うことができた。
ただ、NTTデータグループがここまで磨いてきた企業スタイルをもってすれば、今回のNTTグループ再編成といった大きな波も乗りこなし、そのことすらさらなる成長につなげていくことは間違いなさそうである。
最後に、今回筆者は日本が誇るNTTデータグループへのインタビューということで、かなり緊張して臨んだが、対応していただいた3氏に心地よい空気感を作っていただけたおかげで、多くの情報をヒアリングさせていただくことができた。
その結果、同社が安定した業績をあげているといった財務面だけでなく、人事制度や組織風土の面でも盤石で人を大切にする素晴らしい企業であることを理解した。
JNSAの「組織で働く人間が引き起こす不正・事故対応WG」では、イソップ寓話の「北風と太陽」になぞらえ、内部不正の防止にルールと罰則で抑止する施策を「北風的」、働く人が幸せであれば不正の発生が減るという前提で人の意識や組織文化を向上させる施策を「太陽的」と考え、近年は後者の事例を収集し紹介する活動に取り組んでいる。
当然、NTTデータグループでも多くの「北風的」施策が取られていると考えられるが、EE(Employee Engagement)*2の向上には「太陽的」な施策が影響しているはずであり、今回のインタビューでも多くの「太陽的」施策をご紹介いただいた。
CS(Customer Satisfaction)の向上にEEが関与するか否かについては諸説あるが、筆者は「他人の幸せに貢献するためには、自分も幸せであるほうが良い」と考えている。
今後もNTTデータグループでは、様々な「太陽的」施策で従業員が働く幸せを向上させていくだろう。そして、Our Wayの浸透とともに、顧客の幸福向上に貢献していくことは間違いなさそうである。
- 【注釈】
- *1 Career Development Program
*2 株式会社NTTデータグループでは、会社と従業員の関係性の捉え方をEmployee SatisfactionからEmployee Engagementへシフトしている - 【参考資料・出典】
- [1] NTTデータグループ:「Global Top Employer 2025」の認定を取得
https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2025/011600/
[2] みん就:2026年卒の就活生が選んだIT業界新卒就職人気企業ランキング
https://www.nikki.ne.jp/event/20250514/
[3] NTTデータグループ:NTT DATAのOur Wayを刷新
https://www.nttdata.com/global/ja/news/release/2025/070100/
[4] NTTデータグループ:人事制度・育成
https://www.nttdata.com/global/ja/about-us/sustainability/employee/training/
[5] INTERNATIONAL BRAND EQUITY: 10 Best IT Services Companies in the World 2025
https://www.internationalbrandequity.com/best-it-services-companies/
| « 第16回 日立製作所 研究開発グループ(前記事へのリンク) |