はじめに: 「ES向上、良い『組織文化』醸成のための企業努力」を
掘り起こし、
共有する取り組みについて
組織で働く人間が引き起こす不正・事故対応ワーキンググループ(内部不正WG)
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個人情報の漏洩事故や、データ改ざん事件などが世の中を騒がせたことがきっかけとなって、「組織における内部不正」に人々の関心が向いてきています。内部不正も犯罪の一種であることには変わりありません。そのため、内部不正への対策を考えるうえでは、犯罪学の知見が役に立ちます。犯罪学では、犯罪の成立要件を「『犯罪企図者(犯罪をしようとする人間)』が『犯罪の機会』に遭遇すること」のように捉えています。ここから、「犯罪企図者を作らない」、「犯罪機会を作らない」という防犯対策の2つの方向性が導き出されます。
社会一般では「犯罪企図者を作らない」対策は難しいとされ、主に「犯罪機会を作らない」ようにする防犯対策がなされています。情報システム的なソリューションは、組織の中に悪意をもった人間がいたとしても、システム的な制限を設けて情報窃取などの悪事が出来ないようにする対策であり、「犯罪機会を作らない対策」の範ちゅうに入ります。
昨今の「データ偽造」や「ファームウェア改ざん」などの事件は、「組織で働く人間に起因する事故」が、情報システム的な「機会を作らない対策」だけでは防ぎきれないことを教えています。過去の情報処理推進機構(IPA)の調査では、従業員が不正を行う気になる原因に「不当と思う解雇通知」や「人事評価や賃金への不満」、「人間関係のトラブル」など、職場の人事面、組織面の問題や不満があることが指摘されています。
現在、多くの組織で「働く人間の満足度(ES: Employee Satisfaction)を向上させる種々の工夫が行われています。これらのES向上のための様々な工夫の目指すところは、職場の生産性を上げたり、退職を抑制したりすることなどであり、多くは、これらの目的を達成した段階で完結してしまいます。すなわち、これらのES向上の工夫は、開示しても売上などの指標に関係することが薄いため、積極的に開示し、アピールする組織は必ずしも多くはありません。また、「働く人間に悪いコトを起こす気持ちを持たせない(犯罪企図者を作らない)」という観点から、ES向上を目指す例は多くありません。
これまでの種々の研究から、働く人間を幸せにする職場では、内部不正などの組織事故を引き起こそうとする人間(犯罪企図者)が出る確率は小さくなるものと考えられます。すなわち、「働くこと自体がそこで働く人間の幸せにつながる職場(ESの高い職場)」を作ることは、「犯罪をしようとする人間を作らない対策」そのものとなり、本質的な組織事故対策、内部不正対策になり得るという考え方です。
「犯罪機会を作らない対策」は、一般的に「あれはダメ、これもダメ」といった対症療法的な制限を設ける形をとり、本質的に働く人間の裁量を狭める性格をもちます。いわばイソップ寓話の「北風」的な対策、ネガティブな対策であって、「される側」にとっては決して愉快なものではありません。また、その対策が新たな価値を生むことは考えにくく、「する側」にとっても億劫な面があるのは否定出来ません。
これに対し、「良い職場環境を作ってESを高める対策」は、生産性の改善や退職の抑制、人材採用面のプラスなどが期待できる文字通りポジティブな施策になります。その「太陽」的な性格から、これらプラスの効能が主役の施策であり、「悪事へのやる気(犯罪企図)の発生を抑える」働きは、あくまでも副次的効能であって脇役という位置付けです。しかし、それだからこそ「良い職場環境を作ってESを高める対策」は、内部不正、組織事故発生への根本的な対策になる可能性を秘めています。
これらの背景から、本WGでは職場環境と組織事故(内部不正)の関係性に着目、情報セキュリティに関わるJNSA会員企業をはじめ、世の中の組織が、自らの職場を「人が活きいきとやりがいを持って働ける環境」にするために、どのような施策を実施し、どのような工夫をしているかを掘り起こし、その知見を共有する活動に着手しました。本サイトはこのような想いで開設したものであり、お互いに「良いとこ取り」が出来るようにすることを狙ったものです。
すなわち、「働く人間が、活きいきとやりがいを持って働ける環境」作りのために様々な工夫を行っている組織の、その工夫を、掘り起こし、共有しようとする試みです。このような姿勢こそが、「人々が活きいきと働くことのできる職場環境」を日本に広め、組織事故、内部不正などの働く人間に起因する事故への根本対策になるのみならず、少子高齢化によって働く人間が少なくなるリスクに直面することになる日本の組織に対して、ひとつの道を示すに違いないと信じています。
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