★☆★JNSAメールマガジン 第28号 2014.2.7.☆★☆
先日のJNSA NSF2014で「内部不正対策 ソリューションガイド公開イベントのパネルディスカッション」を聴講した。その中で、(株)リンクアンドモチベーションの高橋潤氏がマズローの欲求階層説を紹介していた。私はコミュニケーションスキルを高めるためにコーチングを学んでおり、セキュリティ業界でもこれが論じられるようになったのか、新しい領域に踏み込んだな、といった思いである。
マズローの欲求段階説とは、人間の欲求を5段階の階層で理論化したもので、低次から順に以下のとおりである。
(1)生理的欲求 … 生命として生き延びるという欲求
(2)安全の欲求 … 安心や安全を得たいという欲求
(3)愛情と所属の欲求 … チームの一員として認められる、他者に受け入れられたいという欲求
(4)尊厳(承認)の欲求 … 仲間に重要であると認められたいという欲求
(5)自己実現の欲求 … 自分はこうなりたい、生きた証を後世に残したいという欲求
さて、NSF2014のセッションでも触れられていたマルハニチロ系の冷凍食品の農薬混入事件である。この容疑者特定には、農薬を混入可能な場所の洗い出しと誰がいつどこで作業していたのかを整理することにより絞り込めたと報道されていた。セキュリティ対策もしかりだ。誰が、どこで、いつ、何をしていたのか、そういった記録をとることが重要である。
ところで、容疑者の作業環境・人間関係はどうであったのだろうか?先の高橋潤氏は、マズローの欲求階層説でいえば、『最低でも「愛情・所属」レベルまで満たされなければ内部不正を起こす可能性があると考えられる。』と述べていた。我が意を得たりだ。
容疑者は、上司に「こんな給料じゃ、やっていけない」と待遇改善を直訴したりしていたという。これを無視されたら、どうであろう。実際に、無視されていたかどうかは不明であるが、この組織のために貢献しようとか、この仲間と一緒に頑張ろうという心境とは、ほど遠いものであったことが予想される。
では、どうしたらよかったのか。
もし、「こんな給料じゃ、やっていけない」と言われたら、 「そう、こんな給料じゃ、やっていけないんだね」とオウム返しのように返して受けとめる。できれば、目をみてうなづきながらである。これだけで、自分は一員として認められている、受け入れられていると思うのである。
話はそれるが、家庭で旦那さんが新聞を読んでいるときに、奥様が声をかけてくることはないだろうか。そんなとき旦那さんはどういった態度をとっているだろうか? よくあるパターンは、新聞を読みながら、「うん、何?」である。人間の五感の割合は、視覚 87%、聴覚 7%、臭覚3.5%、触覚1.5%、味覚1.0%といわれている(『産業教育機器システム便覧』)。つまり、奥様は、「うん、何?」という言葉(聴覚)よりも、新聞を読み続けているという視覚的情報により、旦那さんは「聞いてない、私を無視した」となるのである。
話を農薬混入事件に戻そう。
実際の作業環境においても、たった一人で作業をしていたのではないらしい。もし、日頃から声を掛け合っていたら、どうであったろうか。
警備会社の友人に聞いた話がある。ご近所同士でよく声を掛け合っている地域では、犯罪が発生しにくく警備会社も勝てないと。
やるべき対策は実施したうえで、さらに、良好なコミュニケーション関係を築くことによりセキュリティ対策を補えると私は信じている。