★☆★JNSAメールマガジン 第188号 2020.5.29☆★☆

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今回のメールマガジンは、読売新聞編集委員の若江雅子様にご寄稿いただきました。

【連載リレーコラム】
安全もプライバシーも。二元論ではなく両立を模索した日本版コロナ接触確認アプリ

読売新聞編集委員 若江 雅子


新型コロナウイルスの感染防止対策として、スマートフォン用の接触確認アプリの導入が世界各国で進められています。日本でも、政府の「新型コロナウイルス感染症対策テックチーム」が6月中旬のリリースに向けて開発中で、5月26日にはアプリの「仕様書」が公開されました。

接触確認アプリとは、スマホ搭載の近距離無線通信ブルートゥースを使って、自分が感染者と濃厚接触したかどうかを確認するアプリです。同じアプリを入れたスマホ間の距離や時間を測定し、至近距離に一定時間以上いた場合、匿名化されたIDを交換・記録し、その後、その中の誰かの感染が判明するとスマホに通知が届く、という仕組みです。

3月にシンガポール政府が「Trace Together」というアプリを公開して以降、日本、ドイツ、英国、豪州など各国で開発や実装が進んでいます。5月21日にはAppleとGoogleが共同で開発したアプリ用APIも公開されました。

このアプリが注目されるのは、一つには感染者との接触確認に位置情報を使わない点、そして、ユーザーが自発的にインストールすることで初めてデータが使われる点です。つまり、比較的プライバシーに配慮され、受け入れられやすい仕組みだと考えられているからです。

ただ、実際には、細かい設計によって、達成可能な目的もプライバシーへの影響も大きく違ってきます。

そのため日本では、政府のテックチームが技術的な検討を進めるのに平行して、公衆衛生の専門家や法律家などの有識者による検討会も発足させ、プライバシーやセキュリティ上の安全性や、ユーザーの信頼獲得のためにどのような点に留意すべきか議論してきました。この有識者検討会による「評価書」は、5月26日の「仕様書」の公開にあわせて同時に発表されています。

検討会での大きな論点が、そもそもの目的を「行動変容」か「積極的疫学調査」のどちらに据えるか、ということでした。ユーザーが自身の感染リスクを知り、外出を控えたり、自ら保健所に連絡して検査を受けたりといった「行動変容」のために使うのか。あるいは、公衆衛生当局が濃厚接触者の接触情報を把握し、感染経路の特定など「積極的疫学調査」に役立てるためにも使うのか。目的をどう設定するかによって、設計も変わってきます。

例えば、アプリユーザーに電話番号を登録させるかどうか。シンガポールや豪州は登録方式を採用しましたが、欧州連合(EU)は登録しない方式をガイドラインで推奨しています。

目的が自らの行動変容のためだけなら、電話番号の登録は不要です。一方で、公衆衛生当局にとっては、電話番号があれば感染者だけでなく濃厚接触者にも連絡が容易になり、感染経路の追跡にも活用できます。しかし、電話番号は特定の個人が識別されやすい情報なので、ユーザーにとっては利用のハードルが一気に上がり、普及の足かせになる可能性もあります。

接触の記録を運営者のサーバーで管理する(中央サーバー型)か、ユーザーのスマホ内に保存する(分散型)かも焦点となりました。後者では、濃厚接触の事実は本人しか分かりませんから、プライバシー上の不安は小さくなるでしょう。ただ、これでは濃厚接触の事実を知った本人が、自ら保健所などに申し出たり検査を受けたりしなければ、当局は接触の事実を把握することはできません。

プライバシーに配慮して、ユーザーの自主的な行動変容に期待するのか、それとも疫学上の有効性を重視するか。いろいろ検討がなされたようですが、結局、政府はこの中でも最もプライバシー重視の「電話番号なし」「分散型」を選ぶことになりました。これはAPIを提供するAppleとGoogleの提案する仕様にあわせざるを得なかったという事情もあるようです。とはいえ、目的を具体的に設定し、その目的を達成するために必要なデータはなにで、どうしたら個人の権利侵害が最小ですむのか検討を重ねてきたことは評価できると思います。

新型コロナの影響が深刻化、長期化する中で、ICTとデータ活用に注目が集まり、それとともに「安全かプライバシーか」といった二元論も目立つようになりました。しかし、それは二者択一の問題ではないのではないでしょうか。もちろん、生命の安全とプライバシーを比べれば前者が優先されるでしょう。ただし、それは無条件に認められるものではなく、目的は妥当か、目的達成のために有効で必要最小なものかどうかの検証が欠かせないのではないでしょうか。非常時こそ議論を尽くし、「安全」と「プライバシー」の間にある選択肢から最適解を探すべきだと思います。そしてテクノロジーこそが、この選択肢を増やし、選択の質を高めてくれるはずだと感じています。

#連載リレーコラム、ここまで

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